かわいいきりちゃん。
忍たまのきりちゃんメインのブログです。
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風の音
半助は何度目かの寝返りを打った。今夜はどうも寝付けない。
先ほどから外ではゴーゴーと風か吹いている。裏の柳の枝がぶつかり合うのが聞こえる。
『よく寝てる・・・』
隣の布団ではきり丸が丸くなって寝ている。暑い季節は大の字になって寝るがこの季節は丸く小さくなって寝ている。
よく寝ているきり丸が羨ましかった。
半助が眠れないのは風のせいではない。きり丸が寝る前に言った事が引っかかるのだ。
「あ~あ、俺って不幸だな・・・」
内職をしながらそう呟いていた。そう呟いたあとはまた内職に精を出していたのでなんだか声をかけづらかったのだ。それに、何が不幸なのか聞くのが怖かった。
もし、きり丸の過去についてなら自分にはどうすることも出来ない。
もし、きり丸の現在ならおそろしい。自分と暮らしている現状が不幸だと感じているなら・・・
「きり丸・・・」
そっと髪をなでる。小さな男の子は返事をしない。
「きり丸ぅ・・・」
再び呼びかける。やっぱり返事はしなかった。その代わりと言ってはなんだが中庭で何かが音をたてた。
『たぶん、洗濯桶だな・・・』
裏の塀に立て掛けてある桶がこの強風で倒れたのだろう。わざわざおこしに行くのも面倒だ。そのままにしておくことにした。
が、厄介なことに桶は完全に倒れず風が吹く度に塀をたたくのだ。定期的になる音な我慢できるがこんな風に不定期になる音はどうも気になる。
『これが本当の風任せだよなぁ』
しばらくは我慢したが、意を決して桶を直しに行くことにした。でないと、きり丸まで起きてしまう。
『やれやれ・・・』
中庭に出るとものすごい風にあおられたものが散乱していた。
暗闇ではどれが自分の家のものかイマイチわからない。仕方がないので一つづつ手にとって調べることにした。
どうせ、布団に入っても眠れないのだ。こうして体を動かせば少しは眠くなるかもしれない。
そのころ、きり丸は一人、部屋で目を覚ましていた。
「先生・・・」
いつもどおりに起きるとすぐに半助を呼ぶ。どんな時間でもすぐに
「どうした?」
と返事をしてくれる半助なのに今日は返事がない。
「先生ってばぁ」
きり丸は寝転がったまま半助が寝ているだろうと思われるあたりを蹴っ飛ばす。が、手ごたえというか足ごたえというか、そういったものがまるでない。
「?」
あわてて起き上がって布団をしらべる。当然ながら半助はいなかった。
「先生?まだ起きてんの?」
そう思って隣の部屋も確認する。が、やっぱりいない。
「スゴイ風・・・」
半助がいないとわかると急に怖くなった。怖くなると今まで気にならなかった風が怖くなる。布団に戻って頭からすっぽりとかぶる。それでも風の音ははっきりと聞こえた。まるで、風がきり丸を追いかけてきているみたいに。
「先生・・・」
一体、半助はどこに行ったのか。初めのうちはトイレにでも行ったのだと思っていたが、なかなか帰ってこないところをみるとそうではないらしい。こんな風の強い時に散歩になんて行くはずもない。
「もしかして飛ばされちゃったのかな・・・」
いつだったか絵本で読んだ。大きな傘を持って山まで飛んで行くお話。あのお話を読んだ時は少しも怖くなかったが、本当の風の音は怖い。まるで獣がけんかしているようだった。
「先生・・・」
不安になって呼ぶ。今はいないのだから返事はなくて当たり前なのだけど、返事がないととても寂しい。こんなに寂しいのは久しぶりだ。
風の音はゴーゴーとも聞こえ、ヒュウヒュウとも聞こえる。そして、その風がガタガタと何かを揺らすのだ。その音は大きな下駄みたい。そんな大きな下駄を履いているのは地獄の閻魔さまだと思う。
きり丸の恐怖は絶頂で、今、少し脅かされたりしたら駄目かもしれない。気を失ってしまうかもしれない。もしかしたらショック死するかもしれない・・・
こんな恐怖に打ち勝つには半助を呼ぶしかない。
「先生~」
やっぱり返事はない。
一体、半助はどこへ行ってしまったのだろう。まさか、自分に黙って遠くに行ってしまったのか?
いや、そんな事は絶対にない。前に約束した。半助が約束を破るなんてない。
だけど・・・。だけど・・・。
きり丸は考える。確かに半助は約束を破ったりしない。それは、絶対だ。だけど、自分は数えきれないくらい半助との約束を破っている。
勉強は帰ってからする。
今日は日のあるうちに帰ってくる。
いい子になるから買ってぇ。
こんな約束はした時だけが約束で破るなんて当たり前の感覚であった自分を思い出す。
『先生、怒っちゃったのかな?』
もし、自分がこんなに約束を破られたら本気で怒るだろう。だから、半助も本気に怒ってきり丸との約束を破ったのかもしれない。
今、大声で叫ばないともう二度と会えないような気がした。
「先生!!先生!!!先生ってばあ」
布団の中で声の限り叫んだ。本当は表に飛び出したかったがなにせ怖くって無理だった。
「はぁい」
今度は返事があった。きり丸の必死さに対してえらくのんきな返事だったけど。だけど、そんなのは関係ない。きり丸は飛び起きて抱きついた。
「どうした?目がさめちゃったか?」
きり丸を抱き上げながらいつもの優しい口調で言った。
「どこ行ってたのさ?」
口を尖らせて非難がましい口調。そんな口調はつい可愛くてからかいたくなる。
「あれ?一人だから泣いてたの?」
「・・・泣いてないよ」

乱暴に顔を拭きながら強がるのがまた可愛かった。
「そっか。泣いてないか」
もう一度、きり丸をつよく抱きしめてからおろしてやった。すると、きり丸は大慌てで
「先生、どこ行くの??」
「どこって?お布団だよ」
「じゃあ、どうして俺のこと下ろすの?」
「なんだよ?だっこか?」
「決まってんじゃん!」

小生意気な口調の癖にだっこだっこの甘えん坊。

布団に入るときり丸は当然の権利のように半助の布団に移動してきた。実際にきり丸は自分が一緒に寝たい時は寝てもいいと決めていた。学校では我慢しているのだから家ではいいのだ。
「甘えん坊め」
ぎゅっと鼻をつまんでやる。
「いいじゃん。風が怖いもん」
「大丈夫だよ。弱虫だな」
「だってさ、ガタガタってなるもん」
「おうちが古いからな」

なんの自慢にもならないが本当の話だ。この長屋はかなり古い。
「あの音さ、地獄の閻魔さまの下駄の音・・・」
不安そうなきり丸の声。
「だれが言ってたんだ?そんなの」
「だれも言わない。俺が思ったの」

風の強い中、一人でいて不安に思ったのだろう。半助は一人にしてしまったことを後悔し、そして、わざと明るい声で言った。
「あの音はね、大きな水車が回ってる音に似てないか?」
きり丸は耳を澄ます。そう思ってきくとそう聞こえる。
「ホントだ!水車だ」
「ほら、もう怖くないだろ?」
「うん。でも俺、先生と寝る」
「甘えん坊だ」
「違うよ。先生と一緒なら幸せだからだよ」
「・・・・」

半助はきり丸に寝る前の事を聞くことにした。ここで聞かないともう二度と聞く機会はないような気がしたのだ。なけなしの勇気を総動員させて
「なぁ。寝る前に不幸だって言ってなかったか?」
そう言った声がかすれる。喉に何か張り付いたんじゃないかと思うくらい声が出ないのに自分で驚いた。きり丸も半助のその声に驚いたようで
「先生?へんな声だよ?」
「すまん・・・でも、お前、寝る前に・・・」

自分の声なんてどうでもよかった。せっかく勇気を振り絞ったのだから答えてほしい。
「不幸?・・ああ、あれね。あれはね・・・・」
どうやら思い出したらしい。だけど、口ごもってしまった。
「あれは?あれはなに?」
半助は重ねて聞いた。
「言えない・・・」
「・・・言えないのか」
「うん。言えない」

半助は目の前が真っ暗になった。言えないということは、今の話なのだろう。今の暮らしぶりに「不幸」を感じているのだ。
「そうか、すまん。きり丸」
半助が目に見えて落ち込むのできり丸は焦った。
「先生?先生ってば、また変な誤解で取り越し苦労してない?ねぇ?」
こういうことはありがちなのだ。半助はよくきり丸の事で誤解して勝手に落ち込むのだ。
「傷つきやすい大人だな・・・」
きり丸は半助の事を心底そう思う。だって、半助以上に傷つきやすい大人なんて見たことない。もっとも、半助以上に親しい大人はいないから比べようもないのだけど。
「だって、お前、私と暮らすのが不幸なんだろ?」
こんな言い回しのとき、半助は大人じゃないような感じがする。
「違うよ。またぁ・・・違うったら」
あきれるやら、気をつかうやら。
「じゃあ、いいなさい」
きり丸の心情を察知した半助は急に大人の口調になって言った。自分はきり丸の恋人だが、親代わりでもあり、担任でもあるのだ。あまり、カッコの悪いところばかりは見せれない。
「あのさ、今日さ、いいバイトを見つけたんだけど・・・」
「いいバイト?」
「うん。時給も格段によくってさぁ、楽なの!」
「どんなバイトだ?」
「女の子の恰好でお酒をつぐだけでいいの・・・」
「そんなバイトはいけません!!」
「先生がそう言うのわかってたから断ったの。だからさ、不幸だっておもったの!」

あわてて言った。でないと、半助がお得意の説教をはじめてしまう。バイトを断ったのにお説教だけもらうなんてとんでもない。
「お前ね、気楽に不幸にならないでくれる?」
半助は肩の力が抜けた。きり丸の不幸が深刻なものでなくて本当によかったと思うが、こんな理由で寝付けなかった自分をいたわりたい気分が濃厚だ。
「先生が気楽に心配しすぎるんだよ…」
半助が眠れなかったと聞いてきり丸はあきれていた。だけど、心の中では嬉しかった。自分の事をこんなに心配してくれる半助が好きだった。
「先生、風の音ね、遠くになった気がする。さっきは怖かったのに」
目を閉じて聞くと風の音は一番遠い季節に聞いたような気がする。第三協栄丸に船に乗せてもらったときに聞いた音と同じではないが似ている。ヒュウヒュウと風を切る音。バタバタと帆がなる音も聞こえてきそうだ。さっき、半助が言っていた水車の音も、船でもなっていた。なにか下の方でこんな音がしていたような気がする。
「また船に乗りたいな…」
もう眠くなってきたきり丸は半助の袖をつかみながらそう呟いた。半助にはきり丸がなぜ船のことなど言ったのかわからなかったが、眠そうなことだけはよくわかった。背中をなでながら
「うん。おやすみ」
と、だけ返事をした。






あとがきです。
今回はセディールさんが考えてくれましたネタです。
いつも、いつもありがとうございます。
おかげさまでございます。
一人だと怖い風の音ですが、先生となら怖くないラブリーなきりちゃんです。
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Author:となりのゆっち
忍たまのきりちゃん好きなゆっちが細々としているブログです。
昭和生まれの専業主婦(子供なし)なのですが、こんな私でよければひとつよろしく。
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