かわいいきりちゃん。
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はいはい
先ほどから半助は掃除をしている。きり丸はというと暇そうに寝転がっている。そんなに暇ならばと、半助が声をかける。
「きり丸〜 掃除手伝ってくれ〜」
「はいはい」

きり丸はめんどうくさそうに返事をする。その態度に半助はムっとする。だいたい、きり丸の家でもあるんだから言われなくても掃除くらい手伝ってくれればいいものを。自分が掃除をするときは、やれあーしろ、こーしろとうるさいくせに。
「はいは、一回!」
半助はきり丸に向かって厳しく言い伝えた。しかし、半助の厳しさなんて意に介していないきり丸はアカンベーとして見せた。
「先生もいつも『はいはい』って言うじゃん!」
きり丸の鋭い切り替えし。これには半助は言い返せなかった。確かに半助はすぐにきり丸に『はいはい』と言っている。でもそれは大抵、きり丸の要求に答えてやるときで。でも、今回もきり丸は半助の掃除を手伝うという要求に答えてくれているわけで。
「私は大人だから…」
歯切れの悪い切り替えし。が、そんな半端な切り替えしで納得するきり丸ではない。
「先生、子供でもちゃんと責任を持って行動しなさいって言ってるじゃん。大人ならもっとなんじゃない?」
なんだか偉そうに言い返してきた。まぁ、だいたい偉そうなんだけど。
「うっ…」
予想どおりに言い返してくるきり丸。半助が言葉に詰まるとますます責めてくる。人間、誰でも相手が困ると攻め込みたくなるものだ。
「子供だからって許されるって事ばかりじゃないんだぞっとも言ってたよね」
身振り、手振りまでつけちゃって。勝ち誇った言い方だ。
「あう…」
返答に窮する半助を楽しそうに責めるきり丸。こう言う場合、いつもだいたい、半助が優位な立場に立っている。今回は珍しく自分が優位な立場だ。珍しい展開に楽しくなるのも無理は無い。
「子供でも適当な返事をされると傷つくんだよねぇ」
きり丸は半助を横目でチラッと見ながら言う。その表情は明らかに作りこまれていた。
「えっと…」
きり丸が楽しんでいることは明らかなんだけど、言っていることは間違ってはいない。人間同士の付き合いには大切なことなのだ。
「先生、俺の事、軽く見てるんじゃない?」
自分だってそんな事は露ほどにも思っていないのに言ってみる。もし、ここで半助が「うん、そうなんだ」と言えば泣き出すに決っているくせに。そんな事は言われない自信があるのだ。
「そんな事は…」
「そんな風に授業も適当にしてるんじゃないの?」

これを聞いた半助は急に顔つきを変え、言い返す。は組は学年でも成績は一番悪いが、半助は授業に手を抜いたことは一度も無い!一度も!これは神にだって、地獄の閻魔にだって、きり丸にだって大声で言える。
「ほう!じゃあ、お前はそんなに熱心に授業を聞いているのか?」
「うっ…」

今度はきり丸が返答に窮する番だった。もちろん、半助だってこの機会を逃すつもりは無い。一気に反撃をかけてくる。
「大体、いつもいつも補習と追試ばっかりで」
「げっ…」

きり丸にとって大変、痛いところをつかれた。授業の話なんて出したのは大間違いだった。
「何度何回、繰り返せば覚えてくれるんだ?」
「あ〜う〜」

 このままではいつものように半助にやり込められてしまう。そんな展開は望みじゃない。なんとかしなければ!
「先生!家の中に仕事を持ちもまないで!!」
「……」

 半助はきり丸の顔をしばらく見つめ、それから大笑いしだした。その様子を見れば何か自分がおかしな事を言ったに違いないと悟る。半助はきり丸の日常のいい間違いや勘違いをものすごく楽しんでいる。きり丸がしでかすイタズラや失敗の尻拭いの代償だと思えば、大変なお徳感があるのだ。きり丸は大人ぶりたい盛りで、半分しか知らない言葉や、はっきり覚えていない言葉でも背伸びして使うのだ。毎日、笑い所満載である。
「感じ悪いよ。先生」
膨れて言う。それでも、半助は笑いを押さえきれず、
「だって、お前。それじゃあ、どっかの奥さんじゃないか」
おなかを抱えて笑う。そんな半助をにらみつけながら文句を言う。
「別にそんな決まりないでしょ?」
「そうだけどさぁ」

 半助はまだ笑って言う。まったく、そんな態度が子供を傷つけるのだときり丸はかなりお怒りだ。
「先生さぁ。笑っているけど最初に言ったこと反省してよ!」
話を変えたいので、話を元にもどした。これ以上は笑われるのはごめんだった。だって、自分ではもうすっかりと大人のつもりなのだから。
「はいはい」
半助ときたら、呆れたものだ。きり丸は白い目で見ながら言う。
「…全然、反省してないじゃん」
 そもそも、半助がいつも返事を『はいはい』とするのが問題だったはずなのに。ここでまた、『はいはい』と返事をするとは。
「俺の事、馬鹿にしてるの?」
きり丸は真っ赤になって怒り、半助はまだ笑いの残した表情で言ってのける。
「きり丸が追試を受けないようになったら改めるよん」
この返答はきり丸に金切り声をださせた。
「先生!ズルーイ!!!」
そんな金切り声はなれたもので、半助は余裕の笑顔で言い返す。
「大人はみんな、ずるいんだよ」
 それから、狭い長屋にはきり丸の金切り声と地団太がしばらく続くことになった。悔しいったらない。なんだって大人ってこんなにズルイんだろう。
「先生って大人の中でもかなりズルイよ!きっと!!」
きり丸は怒りながら文句を言った。半助は余裕の笑顔で反撃した。
「そんな事ないさ、大人なんてこんなもんだよ」
その笑顔がまた、きり丸の癪にさわった。きり丸は両手を突き出して、指を折りながら数え上げていく。
「先生はズルイね!まずね、嘘つきだね!怒らないからって言いながら絶対、怒るね!それからね、閻魔様のことだって嘘だったね。それからね、アイスを二個食べたらお腹壊すって言うのも嘘だったね。この前、利吉さんに食べさせてもらったけど平気だったね。それからね、雷様におへそ取られるのも嘘だったね!!」
きり丸はスラスラと四つまで数え上げる。まだまだ、「それからね」は続きそうだった。おもしろいから聞いても良かったのだけど、ここらで少し反撃。
「きり丸だって嘘つきだろぉ。怒ったら、もうしませんって言うけどまたするし。早く帰りますも守った事なんてほとんどないし、おねしょしないって言っておいてしちゃってるし」
半助の反撃もなかなかである。どれも、これもきり丸にとって痛いところだった。が、きり丸は半助の反撃なんて聞いている暇は無い。自分が反撃したいのだから。
「今は先生の話をしているの!ちゃんと聞きなさい!!」
「はいはい」
「またぁ〜」

半助が自分の話をちゃんと聞かないばかりか、また、「はいはい」と言ったのにきり丸は地団太を踏んで悔しがった。
「大人ってズルイ!!」
「子供だってけっこう、ズルイぞ?」
「大人の方がズルイ!!」

きり丸はもうムキーっの心境だった。そんなに自分がムキーっなのに半助はどこか楽しそうなのがまた、ムキーっなのだった。





あとがきです。
今回はケンカな二人です。
でも、先生は大人なので余裕がありそうですね。
きりちゃんは本気で怒ってますが。
まぁ、恋人のケンカなんてこんなものじゃないでしょうか?





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